#007|【ローカルパートナーインタビュー】福島で新たな酒蔵のかたちを作る「haccoba」に聞くローカルプレーヤーの思い
SOCIAL ENERGYは、地域が自律して生き生きと活動できる社会を目指して、電気事業の収益の一部を地域で活躍するプレイヤーへ還元する仕組みを採用しています。SOCIAL ENERGYを通じて電気サービスを提供する「ローカルパートナー」は、多種多様な事業を各地で展開しています。
今回はSOCIAL ENERGYのローカルパートナーであり、福島県南相馬市小高区で「haccoba -Craft Sake Brewery-」という酒蔵を立ち上げたhaccobaの佐藤太亮さんに、地域での暮らしや仕事、コミュニティとの関わりについてお話をお伺いしました。
※今回の取材は小高区で活動する西山里佳さんのクリエイティブスペースをお借りして実施しました。
メンバーも一新してhaccobaは新たなフェーズに
――この一年を振り返っていかがでしたか。
後藤くんという新しいメンバーが入ったのは大きな変化でした。haccobaを立ち上げたメンバーは全員経営メンバーだったから「社員を養う」という感覚はなくて、「最悪何かあったらそれぞれで頑張ればいいよね」という気持ちだったんです。
けれど新たなメンバーとして後藤くんを迎えたときに「これで僕たちがだめになったら後藤くんに対して申し訳ない」という気持ちが芽生えたんです。これって、子どもができたのと同じような感覚かも笑。
――確かにそれは大きな変化ですね。変化と言えばhaccobaの新体制という話も聞いているのですが、haccobaはこれからどうなるのでしょうか。
後藤くんはもともとニューヨークの酒蔵へ行く計画があったので、当初から1年限定の雇用契約でした。素晴らしい蔵人だったのでめちゃめちゃ引き留めたんですけど笑。
一番大きな変化としては、haccobaを一緒に立ち上げた醸造責任者の立川さんが独立したことです。立川さんは立川さんのカラーで酒蔵を立ち上げたい、ということになり、haccobaから送り出すことになりました。
ただ、体制的には大きな変化ではあるんですが、haccobaとしてやろうと思っていたことが変わるわけではないんです。小高地区の隣の浪江町で新しく酒蔵を立ち上げる、という計画も、今年実施予定です。
――haccobaも新たなフェーズの段階なんですね。
自分たちで流通を持つから自由に挑戦できる
――新たな酒蔵を立ち上げるということは、メンバーも増えるんでしょうか。
実は来期3人メンバーが増える予定です。1人がビジネスサイドで、残り2人が一緒に酒造りに関わってもらうメンバーという構成です。酒造経験は問わずに募集していたので、3人ともお酒造りは未経験です。
――蔵人が2名増えるということは、その方々が酒造りのメインであり醸造責任者になるのでしょうか?
そうですね、できればそうしたいです。僕が酒造りも責任者もやってしまうのは、あまり組織としてよくないんじゃないか、と個人的には思っていて。
――というと?
酒蔵の代表が酒造りの責任者も兼任していると、酒造りを頑張った人が永遠に責任者にはなれない。そういう上が詰まっているという環境はよくないと思っているんです。
僕としては酒造りだけで無く、デザインやコミュニケーションといった領域ごとに責任者がいて、僕はほぼ何もやらないし口を出さないくらいがチームとしては良いと思っているんです。今後蔵が増えていくのであれば、それぞれの蔵に責任者として任せられる人がいる状態が理想的ですね。
――少し話は変わりますが、haccobaってとてもユニークなお酒を造っていますよね。最近だとゴキブリを使ったお酒とか……。他にもクラフトサケブリュワリー協会を立ち上げたりとさまざまな活動をしていますが、こんなに変わったお酒を作っている蔵は他にもあるんでしょうか?
もちろんうちが一番面白いと思っています笑。これは理由があって、僕らは自分たちで流通できるという強みがあるんですよ。普通は酒蔵って酒屋さんを通じてお酒を売るんですが、現状僕らは全部直接販売しているのでめちゃくちゃ挑戦がしやすいんです。
価格設定も、例えば僕らがヘラルボニーさんとコラボしたお酒は500mlで4,500円するんですが、酒屋さんからすると売りづらい金額だと思うんです。けれど僕らは自分たちで流通できるから、価格設定も含めてチャレンジの幅が大きくて、ある意味制約がないです。そのぶん売れなかったら自分たちの責任でもありますが笑。
地域の活動で重要な距離感のバランス
――地域で活動してみて感じたことはありますか?
距離感の大事さを考えています。会社員を辞めて地域で活動し始めて気がついたのですが、隙を見せないと近寄りがたいし、かといって隙がありすぎると信頼してもらえないかもしれないし、バランス感が難しいですね。
個人としてももちろんですけれど、haccoba自体が自分だけのものではなくて、一緒に働いてくれている人や地域で応援してくれている人のものでもあるので、僕個人の行動でhaccobaのイメージに悪影響を及ぼすようなことは僕も望んでいないし、それはよくないなと思っています。
――メディアにも取り上げられて有名になると、ますます隙を見せるのが難しいというのもありそうですね。
僕がSNSとかで親しみを持てるようなキャラクターを上手く出せるタイプだったらいいんですけど、そういうタイプでもないので笑。だけど地域で活動していて尊敬してる人たちを参考にしながら、距離感のバランスをもっと上手くできたらな、と考えています。
――haccobaという看板にプレッシャーを感じることもあるんでしょうか。
プレッシャーはそこまでないですね。けれど少人数でやっているブランドなので、メンバーそれぞれの色がブランドの色にもなるように、ということは意識しています。新しい領域の酒造りに取り組んでいる蔵という自負もあるので、多少とがっても言いたいことは言おう、みたいなことも考えています。
妻は公私共々にすべてを共有できるパートナー
――少しプライベートな質問ですが、南相馬に来てから友達ってできましたか? というのも、この年になると友達を作るのも難しいなって、自分自身が最近思うこともありまして。
僕はそもそも友達がすごい少ないんですが、腹を割ってはなせるのが友達だとするなら、何人かは友達と言える人ができました。
――もう少し具体的にいうと、どんな人なんでしょうか。
年齢とかは関係なくて感覚が共有できる人たち。それが負の感情だったとしても共有して大丈夫だな、っていう安心感がある人たちですね。
――負の感情をどう表に出すか、というところは意識されているんですね。
話せないことではないんだけど、いらないことをわざわざ言って不必要に誰かを傷つけたくはないので、いらないことをわざわざ言わなくてもいいかな、という感覚は結構ありますね。
あとは地域で活動しているからこそ、地域の中で共有するのが難しいな、と思うことも正直あります。そういうときは違う場所で同じように頑張っている人のほうが思いを共有しやすかったりはしますね。
――確かに同じ地域だからこそ、ここで話すと角が立つかもしれない、ということはありそうですね。
恋人みたいなものですかね。同じ職場の人だと仕事の悩みは相談しやすいけど、逆に同じ仕事をしているからこそ言えないこともあったりして。そういう意味では、(共にhaccobaを立ち上げた)妻のみずきが本当に一番すべてを共有できていますね、ちょっと恥ずかしいんですけど笑。ビジネスパートナーとしてはもちろん、家族としても、すべて信頼して共有できているというか。
――ご夫婦で同じ仕事をするというのはすごく興味があるのですが、どのようにされているんでしょうか。
どうなんだろう、みずきが気を遣ってくれていて、僕は何も考えていないかもしれない笑。うちの夫婦の場合、仕事については100パーセント信頼していて、そこに対して特段口を出すことはないですね。いや、少し口は出してるかも...笑。
――夫婦で分業している感じでしょうか。
分業というより、僕が口を出すと僕の意見が通ってしまうのが嫌だという感じです。みずきはブランディングやお客さまとの距離の取り方がうまくて色々ハンドリングしてくれるので、みずきの感覚を活かしながらやってほしいという思いがあります。ただ、自分の仕事で迷った時に壁打ちに付き合ってもらったり、普通に言い合いしたりけんかしたりはもちろんありますよ。
――お話を聞いているととてもいい距離感ですね。
お互いに仕事の価値観や家庭観にまったく違いが無くて、コアの部分が一致しているんですよ。働き方や家庭の話はもちろん、好きなものも似ているので、枝葉のけんかはそこまでクリティカルなものではないと思っています。こんなこと言っておいて、1カ月後に別居してたらごめんなさい笑。
自律分散型で面白い酒造りを続けられる酒蔵を目指す
――話を戻して、haccobaのこれからについて教えてください。
さっきの「口を出さない」という話で言うと、僕としてはhaccobaを中央集権的な組織にしたくないと思っています。酒蔵をいくつか作ったらそれぞれが自立的にブランドを作っていくような分散型でやっていたいということを、夫婦のバランスだけじゃなくhaccoba全体で考えています。
――なぜ分散型がいいんでしょうか。
抽象的な表現になっちゃうんですけど、その時々で関わっている人のキャラクターによって、酒蔵の見え方やブランドイメージが有機的に変わっていく方がなんか面白いなって思っているんですよ。「僕が始めたから僕がいる間は僕の色でしかない」というのは望んでいなくて、入ってくれたメンバーによってhaccobaの色が変化していく方がやっていて楽しいなと。
――haccobaの色が変わるというのはどういうところで感じられる要素ですか。それはお酒の味なのか、それともブランドイメージやお店の雰囲気なのか。
すべての領域ですね。ブランドはもちろん、お酒の味も全然違うものになっていいと思っていて、そのほうがお客さまからしても飽きないし、僕としても成長を見守っている感覚になれると思います。
――少し意地悪な質問かもしれませんが、今のhaccobaが好きな人にとって、haccobaが変わっていくことは期待していないことかもしれません。そのあたりはどう思いますか?
そうですね、でも変わった先のものに圧倒的な価値を感じてもらえるものを出し続けられるなら、それは不満にはつながらないんじゃないかな、と考えています。
――ずっと変わり続けながらいいものを作り続けて好きになってもらう、もっと言えばhaccobaの変化し続けるところを好きになってもらうということですね。
はい、それが大事なことだと思っています。その点ではお客さまとの距離が少しできているかな、っていう気がしているのが最近の課題ですね。美味しいお酒を提供するだけでもいいのかもしれないけど、haccobaの立ち上げ当初はもっと酒蔵を一緒に作っている感覚を持ってもらえてたんじゃないかなあ、と思ったりすることもあって、もう一度そこに立ち返れたらと。お酒を一緒に造っている感覚を持ってもらえるほうが、きっとお客さまも楽しいと思うので、来期はそんな取り組みをやっていこうと思っています。
――そういう距離感って組織が大きくなるにつれて難しくなっていきますよね。
けれど、大きなメーカーでもそこのお酒を好きな人たちが“熱狂”しているところもあって、それってただ飲んで美味しいだけじゃない、お客さまとの絶妙な距離感が必要なんじゃないかと思っています。
僕たちは直販でやっているおかげで、他の酒蔵さんよりはお客さまの顔が見えていると思うんですが、地元以外ですごく仲良くなっている人はまだ数えるくらいしかいない。けれどオンラインで何度も買ってくれている人もいて、そういう人たちがhaccobaのどこに共感してどんなお酒を求めているのかを知ることは、haccobaの意思決定にも重要だと思っています。
――顔が見えるお客さまを増やしたい。
そうですね。地元の方とか遠くから足を運んでくださる方ももちろんありがたいんですが、それ以外のお客さまとどうやって顔が見える距離にするかは我々にとっても大事だし、たぶんお客さまにとっても楽しんでもらえるんじゃないかなと。
――顔の見える生産者というのはよく聞くけれど、生産者からお客さまの顔を見に行くっていうのは面白いですね。
実際にお酒を造って熱狂を広げるのは自分たちなんだけど、そのちょっと外側にいる、我々に近い感覚でお酒を造ったり広めたりすることを一緒にやってくれる人が、今のhaccobaに対してどれだけいるんだろうと思うと、全然まだまだ多くはないだろうと認識しています。
ただ買うだけじゃなくて、ちょっと熱狂度合いが高い人がいてくれたら心強いし、楽しい。そんな応援してくれる人を増やしていけるようなhaccobaを目指してお酒を造っていきたいと思います。
haccoba電力の詳細はこちらから
https://socialenergy.jp/project/haccoba/
取材:小波津
編集:甲斐