10月31日(月)にSOCIAL ENERGYが主催する初のオンラインイベント「自律的な地域を作る〜DAOという手法から考える〜 」を開催しました。
SOCIAL ENERGYは、地域で社会的活動を推進するローカルパートナーを電力を通じて応援する事ができ、また、毎月の支払いを通じて継続した支援関係を続けられることが特徴のひとつ。今後も活動を展開していく上で、ブロックチェーンや暗号資産、NFTなどとともに「Web3」に関連したキーワードとして話題になっていた「DAO」は、私たちとしてとても気になっていたテーマです。
DAOとは何か。また、DAOのような手法を取り入れることで、どんなことが実現できるのか。実践者であるスマニューラボ取締役の佐々木大輔さんとNext Commons Lab 代表/山古志DAOアドバイザーの林篤志さんにお話をしていただきました。
DAOは見知らぬ人たちが集まって地域のために動いてくれるツール
家冨:まずは佐々木さんから「DAOとは何か」について、教えてください。
佐々木:DAOとは「Decentralized Autonomous Organization」(分散型自律組織)のことですが、この言葉が話題になった文脈にはブロックチェーンがあります。「スマートコントラクト」によってガバナンスや報酬決定・分配といった組織の重要な機能を実際にプログラムに任せられるようになってきた。なそれで話題になったんですね。
ただ、私がDAOを一番広い意味で使うときは「見知らぬ人々がオンラインで安全に働ける方法」と言います。これだと定義が広すぎて「そんなのDAOじゃない」という人もいるんですが、私のスタンスとしては、これもDAOと言っていいと思っていますし、実際にTONO DAOではこの広い意味でのDAOを実践しています。
ここからは私の考えですが、狭い意味でのDAOはスマートコントラクトによって報酬分配や意思決定をプログラムで自動実行することで、「見知らぬ人々が安全に働きたい」からやっていることだと思うんです。自動実行することでごまかしたりということが不可能になるので、会ったこともなくて信頼をおけるかどうかわからない人たちが集まっても、安全に働くことができる。
一方で、広い意味でのDAOは、私が言う「見知らぬ人々がオンラインで安全に働ける方法」という言葉の通り、アウトカムに注目しています。だからスマートコントラクトを導入する組織もあれば、(スマートコントラクトを使わずに)Discordで頻繁にコミュニケーションを取ることを大事にしている組織もある。Discordにはただ「gm(good morningの意味)」を投稿するだけという文化もあるんですが、みんな同じことを書くから、特定の人が「面白い」「つまらない」という考え方がないんですね。これも安全な働き方を支援するカルチャーのひとつです。
家冨:見知らぬ人が安全に関われるというのは「見知らぬ人をどんどん招いていきたい」という意図があるのでしょうか。
佐々木:その通りですね。「コミュニティの中の人と知り合って1年経ってから」みたいなことがなく、地理的・心理的な距離感を飛び越えてプロジェクトやチームに入っていくことができれば、色々な人や力が集まりやすくなりますよね。
林:そのあたりが地域を舞台にしたDAOの一番わかりやすいところですよね。従来の地域は閉鎖的で、地域で仕事をすることがなかなか実現しづらく、ある種の機会損失があったと思うんですよね。
一方で、TONO DAOや山古志DAOでは、一緒にやっている人がどこの誰なのかよくわからないんですよね。ほとんどの人が知っているのはアカウント名のみだけど、一緒に仕事をしていて楽しいし、いい仕事ができている。
そうして専門的な技術を持つ人や面白い人たちが集まって地域の未来に貢献して動いてくれるというのは、なかなかこれまでの地域では起きにくかったことだと思うんです。「DAO」はそういうツールのひとつでもあるなと、やりながら感じています。
地域を誇りに思う結びつきこそが地域DAOの力
家冨:他のDAOと地域に紐付いたDAOの違いとして感じているものがあれば教えてください。
林:「何を目的に集まっているのか」が重要だと思っています。一般的なDAOは具体的な目的があることが多いですが、山古志DAOはこのままだと山古志がなくなってしまうから存続をかけてみんなでどうにか考えよう、というふわっとした目的なんですね。けれどそこに人が集まってきて、真剣に山古志の未来を考えたり、おふざけを含めて楽しいプロジェクトが生まれたりしています。
地域には何千年という単位でそこに住んできた人々が受け継いできた歴史や文化などのバックグラウンドがすごくあって、それらをデジタルを介して拡張していった先に色々な人たちが共感してくれるものがある、という懐の大きさみたいなものは、地域ならではだなと感じます。
ちなみに、TONO DAOに集まっている人たちはどんな目的を持っているんですか?
佐々木:今とても面白い話になりましたね。山古志DAOもTONO DAOも目的ってあるようでないですよね。その代わり別のものに包括されているというか。
先程話した狭い意味でのDAOは、資産の分配のようにはっきりとした目的があるから、全部プログラムで解決することができる。
それが広義のDAOになってくると、コミュニティーや地域、人など実に足場になるものが必要なんです。単一な目標というよりは個人の目的のために集まっていて、その中でどこか重なり合う部分があってかろうじて輪郭ができている、みたいなところがあると思います。
山古志や遠野のような地域名は、誰のものでもないじゃないですか。でも、その名前に特別な力があるんですよね。唯一あるとすればみんなその地域を誇りに思うために、いいことはしたいし、変なことはしたくない、という結びつきだと思います。
林:地域の名前は無形の資産だけれど、TONODAOとか山古志DAOのように昇華することで、本来誰のものでもない無形の資産を改めて誰でもアクセスできるようなものに仕立て上げている感じはありますね。
山古志DAOでは山古志という名前を使ってNFTを発行しましたが、どこの誰かわからない人たちに一部予算を使ってプロジェクトを行うことに対して、地元の人達は戸惑いがあったと思うんです。それを乗り越えて、リアルな村民にもデジタル村民にもお互いにいい刺激を与えている状況ができているのが、これまでの地域づくりとは違う次元になってきたなと感じています。
家冨:山古志DAOではデジタル村民の方たちが山古志村の石碑を3Dスキャンして、それをコンテストするみたいな取り組みがありましたね。ITリテラシーがあって、感度の高い人たちが楽しんで取り組んでいる雰囲気が伝わってきました。
林:色々なプロジェクトが動いているので、私もよくわかっていないんですよ。他にもVRで再現された山古志で野菜がアバターとして動き回っていたり、みんなで花火を一緒に見るみたいなことも起きていて。説明不能なんですけど「まあ楽しそうだからいいか」と思っていますし、そういうカオスを許容する感覚も新しいなと思いますね。
DAOを会社や地域という枠組みを超えて参加できる場所に
家冨:佐々木さんへ「DAOの定義として『見知らぬ人々が安全に一緒に働ける方法』とおっしゃっていましたが、『働ける』というのを『暮らせる』に変えても大丈夫ですか?」という質問がありました。
佐々木:確かに一緒に働けるんだったら、一緒に暮らすこともできそうな感じがしますよね。「見知らぬ人が安全に」というのがポイントで、そのための方法や考え方、カルチャーがあると私は思っています。
DAOの中で気づいたのは、普通会社のオンライン会議をやる時に誰か画面オフにしている人がいると「体調悪いのかな?」と心配してしまいますよね。でも、Discordでボイスチャットのイベントをやるときは、画面をオフにしてアイコンだけが並ぶという同じ条件にすることで、見知らぬ人々がどんな状態でもフラットに話せるんですよね。単にオンラインで話をする時の文化なんですが、これもDAOっぽさだなと感じています。
家冨:改めてTONO DAOの詳細についてお聞かせください。
佐々木:林さんが2016年に創業した「株式会社Next Commons」という会社が岩手県遠野市にあるのですが、フルタイムのメンバーがひとりもおらず、コミュニケーションにはSlackを使っていたんです。私が2020年1月にNext Commonsに関わる時に、新たなコミュニケーションツールとしてDiscordを提案したんです。
Slackは人を招待するときにメールアドレスに紐づくアカウントを発行したりと手間がかかりますが、Discordの場合はもう少しカジュアルに、自分の意思でサーバーに入ったり招待できるんです。その結果、関係者だけではなくそこに関心のある人たちを招き入れやすい状況が発生します。
さらに、参加者の権限を細かく設定することができるので、適切な権限管理をすれば、秘密は守り、大勢に知ってほしいことはみんなに伝える、という使い方ができる。それらが非常に向いているなということで、切り替えを行いました。
最初は「Next Commons DAO 遠野」という名前をつけたんですが、それだと法人のDAOになってしまうなと気づいて。私はもっと色々な人が集まって、複数のプロジェクトが立ち上がる中でも、適切な権限管理で安全に運営できることに魅力を感じていたので、会社を感じさせないよう「TONO DAO」という名前に変えました。
漢字ではなくアルファベットでTONOとしたのは、現実の、地理的空間としての遠野の話題に限るのではなく、これまで多くの写真家や小説家、漫画家が形にしてきたようなフィクションとしての、イメージとしての遠野に関心がある人にも入ってきてもらいたいという考えからです。そうしたら「名は体を表す」の通り、段々と参加者が増えてきました。
また、TONO DAOと名前を変えた同時期にNFTも制作していて、2022年10月にNFTコレクション「Game of the Lotus 遠野幻蓮譚」をリリースしました。
家冨:これは民俗学者・柳田國男著作の『遠野物語』が土台にあるNFTなんですよね。
佐々木:そうですね。遠野という土地で『遠野物語』を扱わないのは不自然な土地だと思うので。かといって、『遠野物語』を知らないと面白くないものにすると間口が狭くなっちゃうので、知らなくても楽しめるし、知っている人には「なるほど」と思ってもらえるようなネタを散りばめています。
家冨:林さんも先程言っていた「土地の文化・歴史」がここでも重要な要素になっているんですね。
佐々木:『遠野物語』の中に3人の女神の話があって、その物語を題材にしています。NFT内でも3人の娘が登場したり、華をめぐる話にしていて、小説でも映画でもなく物語をテーマにしたNFTというのがちょっと変わったところですね。
廃村危機の山古志村を救うための「デジタル村民」プロジェクト
家冨:続いて林さんへの質問です。「山古志のような高齢者の多い地域でDAOを導入するにあたって、チームでサポートしたのでしょうか?高齢の方はデジタルが苦手な方が多いですよね?」というのと「リアルとデジタル村民がリアルに扱えたことには、どんなコツ、ポイントあったかをお聞きしたいです」という2点を踏まえながら、山古志の取り組みについても教えてください。
林:山古志村は2004年に起きた新潟中越地震で非常に大きな被害を受け、村民の方たちが家に戻れないという状況が起きていました。
その後徐々に山古志村に住民が戻ってくる頃に震災復興の文脈で立ち上がった「山古志住民会議」という組織が、山古志DAO、Nishikigoi NFTの発行の主体者です。私はその中心メンバーである竹内春華さんと一緒にこのプロジェクトを進めてきました。
山古志村は震災時には2200人いた人口が今は800人になってしまい、このままでは山古志が存続し得ないことが目に見える状態でわかってきたんだそうです。
そこで彼らからご相談いただいたのがバーチャルの活用でした。山古志村に住んでいなくても関わる人たちがデジタル上に増えていけば、山古志村を存続させていく原動力になるんじゃないかとディスカッションする中で、まずは仲間を増やすために「NFTを使ってデジタル村民を集める」という方向性を固めて、2021年12月にNFTを発行しました。
林:この取り組みが成立しているのは、ある種リスクのあることも含めてダイナミックに取り組んでみようという気概のある地域だからこそだと思っています。
最初にNFTを提案したときも、正直通らないだろうなと思っていたんですけど、同世代の竹内さんだけでなく、震災復興のときから活動されてきた60代くらいの地域のドンの方たちも「おもしろそうだし、やってみよう」と言ってくれて、逆に「やってくれるのか」と私自身が思いました(笑)。そのように決断できる地域の柔軟性や思い切りのよさがすごいですよね。
デジタル村民は1000名超。山古志村に“帰省”するデジタル村民も
林:山古志村はもともと錦鯉の発祥の地で、世界中の鯉のバイヤーが錦鯉を一匹数百万円から数千万円という単位で買っていくという商売を続けてきた独自の文化性みたいなものがあります。今となってはこの取り組みをきっかけに山古志が話題になっていますけど、そのファーストペンギンになったというところも含めて、すごく特徴のある地域だなと感じています。
12月にNFTを発行してからは、世界中の方に注目をしていただいて、Webサイトは全部英語で作りましたし、Discordの中も日本語と英語と中国語、多言語でやりとりが行われています。今はデジタル村民がちょうど1000名を超えていて、リアルな山古志の村民より多い状態になりました。
リアルな人口が減る中で、デジタル村民が増えていったときにどんな山古志の存続の仕方があり得るかというところは、私もまだ明確な答えを持っているわけじゃないですが、今後どういうことを仕掛けていこうかとメンバーで議論しています。
質問にあった「高齢者はデジタルが苦手じゃないですか?」というのは、意外にそうでもないんじゃないかなという気もしていて。もちろん山古志の村民全員がこのプロジェクトを正確に理解しているわけではないですが、地域住民との関係性をうまく行えているのは山古志住民会議があるからこそだと思っています。
デジタル村民の人たちも山古志でお祭りやイベントがあると実際に山古志に足を運んでいて、彼らはそれを「帰省」と呼びながら、地域住民と距離感を縮めたり、また、地域の人がDAOについて理解を深めるようなきっかけができています。
また、山古志の場合は地元の方々にNFTを無償で配っているので、普段体操教室や英語教室などが行われているようなコミュニティーセンターで、定期的に説明をする機会も用意しています。なので、結構年齢が高くても、興味関心が上回るとデジタルの壁みたいなものがなくなるのかなと感じています。
地域の人に信頼される関係性の上で成り立つ地域DAO
家冨:ここからはおふたりがそれぞれ気になっていることも話題にしながら進められたらと思っていますが、まずは参加者の方からの質問を取り上げさせていただきます。「立ち上げ時に住民の協力がどれくらい得られたのか気になります」という質問についてお二方はいかがでしょうか。
佐々木:私が関わらせていただいた2020年頃にはすでにSlackのコミュニティーがあって、地域の方との関係性もつくられていたんですね。けれど創業時から立ち上げた方々は、地元の方たちの協力を得るのに大変苦労をなさったと聞いています。
オンラインで見知らぬ人々が安全に働く方法はもちろん大事なんだけど、同じくらい一緒に時間を過ごすことも大切で、そこを何年もかけて地域の方に信頼される関係性ができていたからTONO DAOは実現できたんだと思っています。山古志はどうですか?
林:その通りですね。遠野の場合、株式会社Next Commonsのメンバーは地域の人からしてみれば、黒船じゃないですか。「よくわからない」と思われていたところから少しずつ信用が積み重なってきた先に今のプロジェクトがある。
林:大事なのは、プロジェクトの中身じゃなくて、「◯◯さんが言うんだから、面白そうじゃん。やろうよ」と言わせる積年の何かなんじゃないかと思っていて。
山古志に関わっていてもその通りで、動き始めるのはプロジェクトとしての良し悪しではなく、今まで頑張ってきた人が地域のためにやってみようと言っているから、というところでしかなくて。私はすでにあった土台の上に乗っからせていただいているという感覚しか持っていませんし、逆に土台がまったくない地域に、こうした新しいアプローチのプロジェクトを持っていっても、そもそも立ち上がらなかったんじゃないかなと思います。
佐々木:株式会社Next Commonsを創業した6、7年前と比べると、リモートワークが一般化したことも影響しているかもしれません。Zoomなどのビデオ会議システムを誰でも簡単に使えるようになったことで、普段離れた場所にいても存在感を出すことができるんです。
例えば、私は普段東京に住んでいるんですけど、オンライン上だと連絡の反応は早いし、呼ばれれば会議に出るし、遠野での存在感はあると思うんですよ。だからその人が何を成した人なのかという「Do」じゃなくて、「あの人、何やっているかわからないけど、いつもいるな」という「Being」が信頼感に影響すると思うんです。もちろんBeingするためにも土台が必要なんだけど、土台ができた後は距離が離れていても、長い間一緒にいられるというのはあると思いますね。
地理に縛られず遠野に出入りする人すべてで作る「広遠野」構想
家冨:続いては「各DAOの最終ゴールは地域や住民がどうなることですか?例えば住民が増えて、税収が増えることですか?」との質問です。
佐々木:一般化はできないと思うんですが、私の場合は行政区単位としての「遠野」ではなく、みんながそれぞれに思う「TONO」が魅力的になっていくことをしたいなと考えました。税収が上がるとか、関係人口が増えることはあくまである状態を達成したときに起こる結果のひとつで、それがゴールではないなと思っています。
ここから先は私が思っていることですが、『遠野物語』を書いた柳田國男が晩年に書きたいと思っていた『広遠野譚』という本では、遠野市のことではなくて遠野に出入りする人や物、ネットワークそのものを書きたかったという話をよく覚えていて、もしTONO DAOというフィクション上の遠野で、柳田國男が書けなかった広い人と情報のネットワークを実現させられたらすごく価値のあることだなと思っています。
かつては花巻から宮沢賢治もよく来ていたし、世界遺産の橋野鉄鉱山がある釜石も隣り合っていて、それらが全部「広遠野」なわけですよ。東京と遠野を往復している私からしてみたら、東京に住んでいる人や海外に住んでいる人までも、そこに出入りしている限りは「広遠野」の範囲に含まれます。
そうした柳田國男を超える「広遠野」みたいなものが出現して、そこにみんながアクセスできて、自分が楽しいと思うものを持って帰れる状態ができたら、すごくいいなと思っていますし、地名という最強の無形の資産をさらにパワーアップするには地理に縛られてはだめで、もっとネットワークを活かしたらすごいものになるんじゃないか。その考えにひとつの形を与えるのが、DAOやNFTだと思っています。ただ、それは1、2ヶ月でできるものではないと思うので、時間をかけて、実現できたらいいなと考えています。
多種多様な人材が集まって地域に貢献してくれることがDAOの魅力
家冨:ゴールではなく、「状態」なんですね。林さんはいかがでしょうか?
林:佐々木さんに共感するところが多いんですが、少し視点を変えてお話すると、山古志の場合は、最初にNFTを発行するときに錦鯉をモチーフにしたジェネラティブアート(プログラムで自動生成されるアート作品)を作りました。デジタル村民だけのコミュニティや意志決定のための投票権という機能だけなら、ただのシリアル番号が書かれた静止画でもいいわけなんですが、デジタルアートにするからこそ、色々な境界線を溶かしたり、人々の認知を変えたりすることができるんじゃないかという気がしています。
物理的な山古志には行ったこともない、関わったこともなかった人たちがNishikigoi NFTを持ってDiscordに入ることで、山古志の文化やスピリットに共鳴するというか、帰属意識みたいなものを持ち始めている状況ができています。そしてそこからどんどんプロジェクトが生まれたり、実際に山古志に訪れる人がいることで、その流れが更に強くなっていると感じています。
人々が知らず知らずのうちにつくる境界線や境目。それを打ち消していく役割として、Nishikigoi NFTが大きな役割を果たしているんじゃないか、というのは感覚的には思っています。
山古志DAOの最終ゴールがなんなのか、という話は私もちょっとよくわかりません。リリース時に、「『800人+10,000人』の新しいクニ作り」という宣言をnoteに書いたので、そのイメージを持っている方もいるかと思いますが、デジタル村民のネットワークができた時に何が起こるかを見てみたいという気持ちはもちろんあるものの、その目的を税収が増えるとか、移住者が増えるっていうところにしているかというと、そうではないんですね。
林:例えばNFTの売上は初回販売時のイニシャルと二次流通のセカンダリー取引という2種類の売上があります。
Nishikigoi NFTのイニシャルは10,000点発行したんですが、それを売り切ったからといって、山古志を未来永劫支えるような財源にはならない。一方でセカンダリー取引が活発に動いたら、山古志の継続的な財源になるんじゃないかという仮説はあったんですが、売りに出されている割合を示すリスト率が2%しかないんです。どういうことかというと、みんな手に入れたNFTを保持し続けるスタンスが強い。なので、二次流通で収益が入り続ける構造を作れそうかというとそうでもない。
では「やってよかったね」と思えるものが何かというと、圧倒的に人なんですよ。今まで山古志に関わりようのなかった本当に多種多様な国内外の人材が集まって、地域に貢献してくれている。それはそれぞれのデジタル村民の自己欲求を満たすことにも繋がっていて、「楽しい」というレベルのものから、がんがん仕事になるものまで様々なプロジェクトがあります。
なので、明確にアウトプット、アウトカムを定義して運営しているというよりは、800人+10000人の繋がりが広がっていったときにどんなことが起きるのか。山古志村を存続するための光がどう見え始めるか、というところに期待しながら動いている。曖昧な世界の中で動いているなと思っています。
地域に関わることで広がる不確かな可能性を楽しんで欲しい
家冨:最後に、おふたりからメッセージをいただけたらと思います。
佐々木:山古志DAOのNishikigoi NFTはすごくいい意味でスロースタートで、リリース当初はNFT界隈の中ではあまり話題にされていなくて、3、4ヶ月経った頃にみんなが注目し始めた。その頃には最初に集まったデジタル村民でしっかりとしたDiscord内のカルチャーがつくられていて、さらに人が加わることで盛り上がっていく、というように普通とは違う成長の仕方を、長い時間をかけてしているんです。
TONO DAOもそれをロールモデルにしているところがあって、最初にどんと盛り上がるよりかは、よく理解してくれている仲間を少しずつ増やして定着していくようにできたらいいなと思っています。そして、そこで私が設定したKPIの考え方は、NFTの売上だけを重視するのではなくて、NFTを持っている人たちによって遠野で関連する消費がどれくらい生まれるかというGMV(流通取引総額)も大事にしようと。
だから一番悪いパターンはNFTが売り切れても、みんな遠野に関心を持たずに1円も払わないことなんですね。そういう意味では、山古志DAOとTONO DAOは向いている方向が似ている珍しい取り組みなんだなというのを改めて感じました。
家冨:林さんもお願いします。
林:DAOやNFTというツールが生まれたことで、これまで可視化されなかったものが可視化され、自分の暮らしや仕事の幅が変化していることをいちユーザーとしても感じています。
私もまさかこんなに山古志に関わることになるなんて、本当に思っていなかったんですね。なんなら、「なんで自分がやっているNext Commons Labの地域でやらずに、山古志でやっているんだ」って各所からツッコミが届きましたし。
同じように、山古志のNFTを買ってくださっている方で、山古志に行ったことないという人たちも、デジタル村民になることで人生や暮らしに大小様々な変化が起きていると思うんです。わからないものでも、そこにアクセスしてみることで、広がっていくおもしろさ。不確かな可能性みたいなものを楽しんでいただけるといいんじゃないかと思っています。
今回はDAOの話でしたが、SOCIAL ENERGYも同じように地域と関わるためのDAOに似たミニマム版みたいなものだと思っています。みんな使っている電気の料金をなんとなく大手に払うのではなく、特定の場所に貢献できるサービスに切り替えることによって、思わぬ広がりみたいなものが見えてくるんじゃないかと思っています。
地域を支えている社会活動団体を電気代を通じて支援することができる電力事業SOCIAL ENERGYの先にどのような世界を描いていくか?を運営者として広い視点から考えてみたい、という思いから本イベントの企画がスタート。現場の人と支援する人とが自然体に関わり合うことを叶えていくための、礎となる思想や具体手法について多くの学びを得られたイベントとなりました。Nishikigoi NFTのように、DAOに関わる人のアイデンティティであり帰属意識となるようなグラフィックを、SOCIAL ENERGYでも参加証明書(POAP)という形で今回試験的に発行をしてみましたので最後にご紹介です。
佐々木さんが発行されているニュースレター「メディアヌップ」に、イベントのダイジェスト版ポッドキャストが上がっておりますので、そちらもぜひお聞きください。
また、YouTubeではイベントの完全版アーカイブを見ることができますので、こちらもご覧いただけますと幸いです。
<紹介事例参考リンク>
遠野
・TONO DAO Discord: https://t.co/os5hmrhPnf
・GOTL: https://gotl.io/
・GOTL ニュースレター: https://www.getrevue.co/profile/tonoNFT
・GOTL Twitter: https://mobile.twitter.com/gotl_tono
山古志
・Nishikigoi NFT: https://nishikigoi.on.fleek.co/
・Nishikigoi NFT Twitter:https://twitter.com/nishikigoiNFT
執筆:宮本
編集:甲斐